植物の癒しの言語: 近代的な錬金術の道
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当時はバッチ博士に関する著作は3冊しかなく、そのいずれも、博士の植物観察に関してはごく簡単な説明しかありませんでした。博士本人の著書である『汝、自らを癒せ』には、中世の医師で錬金術師でもあったパラケルススへの言及がいくつか見られます。バッチ博士の植物研究の方法がどんなものであったかを示す直接的な証拠は何もありませんが、バッチ博士はおそらく、植物の形態とそのヒーリング特性との相関関係に気づいて、パラケルススの「特徴説」“Doctrine of Signatures”をフラワーエッセンスの植物研究に応用したのだと思います。 いずれにしろ、植物の「特徴」という概念は、フラワーエッセンスを研究するための出発点を私に与えてくれました。そして1979年に私は、植物の癒しの言葉を探索するための旅の途中で、そうして得た理解をプラクティショナーの国際ネットワークの臨床経験を通じて検証することを目的にフラワーエッセンス協会(Flower Essence Society)を設立しました。その後直ぐに、パトリシア・カミンスキーが仲間に加わりました。パトリシアは、ルドルフ・シュタイナーの精神科学やヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの植物生態学を私たちの研究にもたらしました。植物がその本質を物理的形状や成長パターン、特に拡大と収縮の両極性あるいはライフサイクルにおける形状の変容を通じてどのように表現するのかという、ゲーテのいう植物の「ジェスチャー」という概念は、確かにパラケルススの「特徴、signature」に通じています。 植物を観察し、新たなフラワーエッセンスを創り出していく過程で、バッチ博士のフラワーエッセンスの植物と生きている関係を築き上げ、それをヒーリングの「ジェスチャー」と呼んだジュリアン・バーナードの中に、私たちに極めて近い精神を見いだしました。 また私たちは、フラワーエッセンスの作り手として、その資質を正確かつ厳密に説明する特別な道徳責任を負っていることを自覚しました。そのためには、私たちの得た洞察を実際のフラワーエッセンスによる臨床経験によって確認するだけでなく、明瞭かつ客観的な植物研究が必要になります。 フラワーエッセンスの植物研究におけるこのような責任感は、私たちにとり西洋の秘境的伝統である錬金術やバラ十字会の研究に基づく、瞑想的な道のりに導かれることになったのです。これは、アーサー・ザイエンスのいう「知覚のヨガ」“yoga of senses”つまり、自分を現実世界から遠ざけるのではなく、私たちの感覚知覚に覚醒した意識を行き渡らせるようとする試みにほかなりません。このような方法で、科学と霊性の両極を橋渡しすることができます。 過去30年間世界中でフラワーエッセンス・セラピーに用いられてきた植物、カリフォルニア州原生の野草Madia elegansを例に植物研究の方法に基づいてご説明しましょう。 |
マディアという植物との出会い
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初春には、マディアの深く根付いた主根からロゼット状に葉が生えてきているのをまず目にします。またその周りには、昨年伸びた茎が乾燥し、乾ききった状態でまだ直立しているのを目にするでしょう。これは、この植物が一年生で、毎年、種から芽生えることを意味しています。 夏の中頃には、春を通じて勢いよく生育し続けたマディアは1.2 mにも達し、細長い葉を付けたグレーがかった緑色の枝を幅広く、いくつにも分岐させます。日が昇り、気温が上昇すると、マディアから刺激性の匂いが立ち上ってきます。近づいて手を触れると、手にねばねばとした芳香性の樹脂が付いてきます。この樹脂は、マディアの側を通る私たちの服や動物の体毛にも付着します。マディアの様々な品種がタール草(Tarweed)と呼ばれているのはそのためです。 |
マディアの特徴的な開花のリズムを観察する
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早朝、夜明けのまだ冷たい光が差し込む頃に戻ると、マディアの花はまだ完全に開いています。日が昇り、光が強まっていくと、小さな花の花弁が中心に向かって丸まっていき、前日の午後に見た小さなつぼみに戻っていきます。植物が時間によって変化する有機物だということが分かります。ですから、ある瞬間に「スナップ写真」を撮影するように植物を1回観察するだけでは、植物を理解することはできません。マディアは、冬の主根から春には葉のロゼットを芽生えさせ、夏には開花し、秋には枯れるというその季節の成長リズムと、また光に反応して開花し、また閉じるというもうひとつの日々のリズムを通じて、その実体を表しています。(カップ・オブ・ゴールド“Cup of Gold”とも呼ばれるカリフォルニアポピーは、マディアとは光に対する反応が全く逆で日中に開花し、夕方になると閉じます。とても光に敏感で、雲が日光を遮っただけで花弁を閉じてしまいます)。 |
内的なイメージを創り出す
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観察したら、感覚を通して知覚したものを元に内的イメージを創り出します。次にその感覚知覚の内的経験として、その内的イメージに命を吹き込み、成長させます。この内的イメージが現象そのものに忠実であるならば(そのためにはかなりの練習とこつが必要です)、それがゲーテのいう「正確な想像力」です。この正確な想像力は、植物の中で働いている形成力に対するさらなる洞察を与えてくれます。これが近代的な錬金術的瞑想による植物の研究方法です。これは、植物の中で働いているアーキタイプの力を私たちの意識という小宇宙で再現することによって、植物のレメディの中にあるヒーリングパワーを理解しようとする試みにほかなりません。 マディアの花は、曼荼羅に描かれた精神の眼のように見えます。精神の眼は、意識集中の練習のように、私たちの意識を中心へと引きつける瞑想的な形です。花弁の内側に向かって閉じる動きや、周辺花が中心に向かってカールする動きを内面的に追おうとすると、この中心に向かう性質がさらにはっきりします。 |
マディアの植物学的科
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マディアと生きている繋がりを持てるようになったら、さらに観察を進めたり、マディアの文化、植物学、医学/栄養学、環境面の特徴やその他の特徴を研究し、熟考するコンテクストが用意できたことになります。 植物観察用の拡大鏡を使ってマディアの花を詳しく観察すると、頭状花が実際は花で一杯の広がりであることが分かります。頭状花は、中央にある5弁の筒状の管状花が、末端部分が3つの裂片に分かれた黄色い周辺花によって囲まれ中央が盛り上がった複合構成になっています。周辺花の上は中央の筒状花の方から外縁に向かって赤またはえび茶色の斑紋が広がり、中央の管状花の周囲に輪を描いています。 |
このようにマディアは明らかにヒマワリやデイジーと同じ科の植物です(デイジーという名前は、Day's Eye"=日の目に由来します)。正式の科名は、星を意味するヒナギク(genus Aster)に因んでAsteraceae(キク科)といいます。このように太陽や星に関係する名前が付けられているのは、花が放射状をしているためですが、この花の最大の特徴は「複合」(composite)構成だと思います。そのため伝統的な科名はCompositaeといいます。キク科植物の頭状花の整然とした構造は、効率的であると同時に美しくもあります。こうした整然とした秩序は、中央の管状花によって形作られる、フィボナッチ数列の成長比を示す互いに交差する螺旋に特に顕著です(右のシャスタデイジターの写真に見られます)。このようにキク科の植物では、中央の母床(管状花)やそれを取り囲む周辺花(舌状花)などの複数の部分が、ひとつの統一性のある全体を形作っています。 キク科植物の整然とした秩序のなかに、キク科植物の鍵となるヒーリングの特徴を見て取ることができます。人間の場合には、その中心的な構成原理となるのは、一人一人の個性であり、また霊的自己(Spiritual Self)や高次の自我です。キク科植物のエッセンスは、人とその霊的アイデンティティ、太陽たる自己または星たる自己(sun-self or star-self)との関係作りを手助けしてくれます。キク科植物は、私たちの意識を育む主要なフラワーエッセンスです。この意識を育むというキク科の植物に共通する総合的なテーマは同じでも、個々の植物によって色々なバリエーションが見られます。これは、基本的な構造が共通している同じ科の植物でも、成長習性や葉の形など様々な要因でバリエーションがあるのと同じことです。マディアは、拡大と収縮、成長と抑制という両極性に私たちの意識を導く形で、このテーマを表現しています。 |
マディアの原生地と歴史
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ネイティブアメリカンは、この植物に栄養価があることを知っており、油脂を大量に含むその種子からピノーレ(乾燥させたトウモロコシや小麦を粉にひき、甘味をつけたメキシコ系の食品)のような食べ物を作っていました。マディアという名前は元々チリが起源です。チリには同種のMadia sativaが生息し、同じように現地の人々によって種子油の原料に用いられていました。 |
太陽の温もりを集中させるマディア
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栄養価の高い種子油でよく知られているキク科の植物に、ヒマワリとベニバナがあります。この種子油は何を表しているのでしょうか。ウィルヘルム・ペリカンはその先見の明に富んだ著書「癒す植物」(Heilphlanzenkunde")の中で、植物油脂に関して次のような洞察を述べています。「揮発性油および脂肪性油脂はいずれも温もりに関係しているが、それ以外では両極に位置する。揮発性油脂の場合には、遠心分離すると物質が暖かな元素の中に分離される。それに対して脂肪性の油脂の場合、温もりが物質に変化する。前者の本質は揮発性で、後者は濃縮液だ」。 マディアの場合、太陽の温もりをその種子の中央に集中させるプロセスが見られます。それは、マディアが毎日、温もりを周辺から引き込み、中央に向けて折り込む身振りに現れています。 マディアを覆っているベトベトする樹脂の被覆も、油のような火のプロセスを示しています。この樹脂はアロマを周囲の環境に放出していますが、マディアという有機物の中でこの樹脂は、乾燥した猛暑にも生命力を維持できるよう、水分を内側に封じ込める働きをします。マディアが猛暑を克服して夏の終わりに花をつけることができるのは、そのためです。この樹脂がなかったなら、マディアは乾燥し、「燃え尽きて」しまうでしょう。このように植物の領域では、樹脂の鞘による封じ込めによって拡大のバランスが取られ、花の領域では、毎日、花が閉じる時の逆向きの収縮動作によって拡大のバランスが取られています。 |
マディアのフラワーエッセンスのヒーリングメッセージ
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マディアのこのような生きたイメージに基づいて、また、FESのプラクティショナーたちの過去30年の経験に基づいて、マディアのフラワーエッセンスのキーワードは、“フォーカスと集中”であると自信を持って申し上げられます。マディアは、注意が様々な方向に引っ張られ、断片化しがちなまさにこの現代という時代のためのレメディだといえるでしょう。多くの人が、eメールや電話、ツィッターやテキストの途切れることの無い奔流の中で暮らしています。マスメディアのエンターテインメントやテレビゲームはいずれも、視聴者の注意力集中時間が短いという想定の下に作られています。大半の人は、ひとつのことをほんの数瞬間しか考え続けることができず、落ち着きがなく、すぐほかのことに関心が移ってしまいます。マディアは、心と体を落ち着かせ中心に添えることを助け、瞑想や学習、精神力を必要とする毎日の責任ある活動の際に、魂が自然により大きな集中力を発揮できるよう働きかけます。マディアは、特に午後になると、あるいは暑気にさらされたときに気が散りやすい人や、注意欠陥障害(ADD)を含め(現代社会そのものがADDと診断されても不思議はありません)、慢性的に注意散漫な人にも役立ちます。 最後に、パトリシア・カミンスキーが作成した、魂のアファメーションの言葉をあなたの心奥深くで味わってみて下さい。 |
私は集中し、明快に行動します |
#この記事は雑誌"Lilipoh"の2010年4月号に掲載されたものです。 ©フラワーエッセンス普及協会 |