パトリシア・カミンスキー/FESディレクター





北カルフォルニアのシェラ山麗の春は、聖歌隊が謳う荘厳なシンフォニーとは違ったさまざまな美しさの側面を見せます。私は二月の末にこれを書いているのですがこの時期にもう春の大きな胎動を感じ、その訪れを祝います。春を運ぶ風は太平洋から渡ってきて来る日も来る日も嵐のように吹き荒れます。壮大でうっとりするような雲の動く様、それはまるで旅人のように見え、とてつもない量の雨と雪を大地を割るようにまき散らし東のほうからシェラ山麗にむけて動き続けます。この大いなる大自然のショーを目撃できるのはなんてすばらしいことなんでしょう。湿潤な自然環境で野性のツリーフロッグ(日本名、アマガエル)が二月の最初の日、春を待ちかねて早く起きなさいと言わんばかりに新しい季節の歌を歌い始めます。ケルトのインボルグの祭り「クロスクォーター」、セントブライズデイ(聖なる花嫁の日)これはキャンドルマスまたはウッドチャック(北米産のリス)の日として知られていますが、この祭りを祝うかのようにアマガエルたちの合唱が始まるのです。カエルたちは大地の新しい季節が沸き上がるとき、深い沈黙の冬至の闇から螺旋を描いて抜け出すのを光と生命のわきたつような歌で祝い喜びます。二月の終わりの日まで、アマガエル聖歌隊のチューチューという可憐な声はあまりにもすばらしくて、ベネディクト派のどんな聖歌隊にも後れを取ることはありません。


バイオレット(スミレ)…春の大自然が演奏するオーケストラのバイオリン。
 私たちの「魂の弦楽器」はその甘美な魅力に引き寄せられてしまう。


熱のこもった、しかも朗々と大気をふるわせる聖歌隊の「チューチュ−」が始まると、まもなく他の動植物がそれぞれのパートを受け持ち、春のシンフォニーを演奏する「楽器」として……ちょうど素早いスタッカートの脈動みたいにはち切れ、柳はいっせいに毛皮のような芽を吹き始め、プラム、アーモンドもそれに続いて芽を出し始めます。沈丁花のゆたかな香りはフルーツにも似た甘い調べで魅惑し夢中にさせます。沈丁の花が生息する森林地帯を抱き抱えるようにたくさんのヘレボレス(ボウゲ科、常緑種、多年草、薔薇に似た花をつける。クリスマスローズとも言う) やレンテン・ローズ(きんぽうげ科、常緑、多年草、薔薇に似た花を咲かせる) が……ちょうどクリスマスローズが十二月のきびしい寒さのなかで花を咲かせるように……すばらしい調和の弦を鳴り響かせます。ほとんど一晩のうちにピンク色の椿に誘われるように、数え切れないほどの球根の花々…紫のヒヤシンス、黄金色のクロッカス、太陽みたいなラッパ水仙、そしてスノードロップたちは虹色のソナタを演奏します。しのぎを削るのではありませんが、鳥たちは春には当意即妙のタイミングで競うように魔法をかけます。特に早春に約束を交わしているように、小鳥たちが大きな白樺のあらゆる木の枝にとまって、すばらしいメロディーのコンチェルトを演奏してくれ、大いに私たちを楽しませてくれるのです。オーケストラのメンバーであなたが好きなものは……と言われたとしても私は答えに窮します。でも、きっとやさしいスミレ、バイオレット(Viola odorata)に一番特等席を用意することでしょう。スミレは自然の春のオーケストラではバイオリンパートに匹敵し、その甘美な魅力は「魂の弦楽器」である私たちのハートを引きつけて放しません。春のシンフォニーではソロのパフォーマンスを奏で、すばらしく、しかもとても洗練されたレパートリーなのです。毎年、心をはっとさせるような紫色のスミレの開花は、森の床一面と高原にクローバーのじゅうたんを引きつめた光景の中に見事な模様を描きだします。

バレンタインデイーをお祝いするとき、カードを買って、スミレのハート形のうぶ毛に覆われた葉っぱで瞑想してみてはどうでしょう。スミレのデリケートで清らかな香りはおだやかなよろこびをあなたのハートに届けます。占星術の大家で植物学者、ニコラス・カルペパーが考察したようにこの花が女神ビーナスに支配されていたり、ギリシャ人が怒りを和らげ心を強くおだやかにするために花と葉を薬のように使ったとしても少しも不思議ではないでしょう?

激しくて湿った日々がずっと続いたこの年の冬……この気候はスミレにはとくべつな恵みをもたらしました。スミレはこのじめじめした小寒い陽気を目いっぱい楽しみました。レメディをつくるときには、私たちはどんな花であろうとその花の輝きやアーキタイプの活力が植物に授けるユニークな条件を捜し求めます。私たちは今年度、スミレがこうした資質を豊富に優雅に蓄えていることを発見して、スミレ、バイオレットのフラワーエッセンスを創作する理想的な機会を目撃できたことを実感しています。(以下、バイオレットと称す。)

フラワーエッセンスを準備することは決して機械的な作業ではなく、それは深い魂の交流でありむしろ私たちがその花の医薬を作るたびに花の魂とのつながりはより深くなり、より新しいものとなっていきます。私たちはバレンタインの日にバイオレットと瞑想的と言える協同作業を始めました。同時に私たちの内なる旅も実際にエッセンスをつくる日の二月十八日の金曜日に最高点に達しました。ちょうど、金曜日のこと、月は輝く一銀貨のように満月になりました。その日こそ、伝統的なビーナスが支配する日…まさにバイオレットのフラワーエッセンスを作るのにはぴったりの日でした。二日の大荒れの日をはさむ金曜日は、じつに穏やかな日の出を迎え、四大要素である大地、空気、火、水の完璧なバランスの日となりました。(これらのバランスがよいことが良質のフラワーエッセンスを作るためにはかかせません。)


フラワーエッセンスを作ることは決して機械的な作業ではなく、
それは深遠なる魂の交流であり、
むしろ、その花の医薬を作るたびに花の魂とのつながりはより深くなり、
新鮮なものとなっていく。
…我々が植物の魂に橋をかけるとき、
人間の魂に語りかけるパワフルな医薬を生み出すことが出来る。


フラワーエッセンスをつくる:内的な魂のプロセス
私たちのノートはこの特別な一週間のあいだにバイオレットが教えてくれたさまざまな情報でいっぱいになりました。これをもとに私たちが洞察したことの一部を、フラワーエッセンスが製品となる過程をあなたがより理解できるようにお話ししたいと思います。私たちの仕事の方法には植物との親密なコミュニケーション、関係性を大切にすること、植物との瞑想的な対話をもとにした熟考、その姿や植物のジェスチュア、色、香りそして植物の育つ環境など、さらに人類の知識によって伝えられている叡知や伝承などが含まれています。私たちは、これらの多くの入口からバイオレットという植物に近づいてゆき、その魂の本質、アイデンティティ、または光輝く存在を呼び出します。私たちが植物の魂の中へ橋をかけるとき、人間の魂に語りかけるパワフルな医薬を生み出すことができるのです。


歴史、伝承そして植物学
ギリシャの叡知は、バイオレットを女神パーセホンと親しく同等の本質をもったものとみなしています。女神パーセホンはプルートーとともに秋から冬にかけて地下に住み、春の最初のつぼみが膨らむと地上に現れ活動をはじめます。この認識がいかに真実を表しているものかは、私たちがバイオレットと暗い大地との深い関係性をノートに書き留めるごとにいまさらのように分かります。バイオレットは湿った森や林、牧場の草木の陰を好み、冬の暗さの深みをやぶる光のように早春に先駆けて花を咲かせます。バイオレットは容易に広がる地下茎をもち、土壌と親しい関係の中で繁茂します。花は、まさに「バイオレット」と言う名に値する深い紫色をしています。しかしこの見るからに王者の風格をもつ花はとても小さく、時には葉っぱや草の陰、森のなかの朽ちた瓦礫の陰にも生息するのです。バイオレットをじっくり手にとって、そう、ハートでしっかりと観察してみると誰でも魔法にでもかけられているような、何気なく見るだけでは到底気づかずに終わりそうな神秘の領域に誘い込まれてしまいます。上部の五枚の花びらのうち四枚は少しねじれていて、最先端の部分には優雅なフレアがついています。下のほうの五枚目の花びらの一部はくぼんでいてちょうどU字型の拍車のようなかたちをしています。この花がいっせいに咲き出すと生き生きとした動きと陽気な威勢のよさが感じられます。それなのに、彼らのダンスは太陽のところまでは届きません。バイオレットの背丈は短く、ハート型をした深緑の葉をつけた茎はまっすぐに天を向くことはしないで、うなずいているようなジェスチャーです。バイオレットの花盛りは文字どうり大地を大らかに抱きしめているように見えるのです。


page : 1 2